すぐにわかる!子どもの連れ去り問題 解説と対応

はじめに

  • 夫が子どもを連れて家を出て行ってしまい、子どもが心配です。子どもを連れ戻すことはできますか?
  • 妻が子どもを連れて実家に遊びに行くと言ったまま、妻の実家に住み続けています。子どもだけでも帰ってきてほしいのですが、対処方法はありますか?

離婚に際しては、子どもを巡る対立が激化することが多く、特に別居開始時に、夫婦の一方が他方の同意なく子どもを連れて出て行ってしまうというケースがよくあります。

ここでは、子どもの連れ去りの違法性の問題離婚時の親権争いに与える影響子どもを連れ去られた場合の対応方法について解説します。

目次

子どもの連れ去りとは?違法ですか?

 (1)そもそも「子どもの連れ去り」とは?

ここでは、「子どもの連れ去り」を、夫婦(父母)の一方が他方の同意なく子どもを連れ出して、他方の親の元に戻さないことと考えます。

子どもの連れ去りは、次の2つに分類されます。

① 別居開始時に夫婦の一方が子どもを連れて家を出る場合(いわゆる子連れ別居)
② 別居後に、面会交流などの機会に子どもを連れ去り、それまで日常的に子の世話をしていた親(監護親)の元に返さない場合

(2)②の監護親からの連れ去りは基本的に違法

別居後に、監護親(それまで日常的に世話をしていた親)の元から子どもを連れ去ることは、実の親子であっても基本的に違法になります。連れ去られた子どもを連れ戻す場合にも、他方の隙を見て子どもを奪い返したり、実力を行使して子どもを他方の親の元から連れ戻すことは違法です。

(3)問題になるのは、①のいわゆる「子連れ別居」の場合

それまで同居していた夫婦の一方が、別居開始時に子どもを連れて家を出ていく場合は、一律に違法とはいえず、許容される場合が多くあります
以下の事情を考慮して違法性が判断されます。

別居前の監護状況
同居時の主たる監護者(主として子どもの日常的な世話をしていた親)が別居開始時に子どもを連れて家を出る場合には、違法ではないと認められやすいです。他方、同居時にあまり監護をしていなかった方の親が子どもを連れ出すことは、違法だと判断されやすいです。

連れ出しの態様
他方の監護者に対する不意打ちによって子どもを連れ出した場合には、違法だと判断されやすいです。例えば、学校や保育園に迎えに行くと言って隙を見て連れ出した場合や、子どもを連れて一時的に帰省し、そのまま帰らない場合などです。

連れ出した理由
子どもを連れて別居を開始した理由が、配偶者のDVや虐待、モラルハラスメントであった場合には、子どもを連れて別居を開始したことについて正当性が認められやすいです。

連れ出した後の態度
他方の親に子どもの居場所を一切知らせず、または面会交流に応じない等、他方の親と子の関係を断つような態度の場合には、不当なものと判断されるかもしれません。ただし、DVから逃れるために別居を開始した場合など、やむを得ない事情があれば正当なものと認められます。

子どもを連れ去ると「親権争い」で不利になる?

 

(1)離婚と親権をめぐる紛争について

親権を巡る対立は、離婚時において特に激化しやすい争点の一つです。
令和6年の改正民法が施行されると、離婚後も「共同親権」を選択することが可能になりますが、「共同親権か単独親権か」「どちらが子どもと暮らすか」といった争いは今後も生じるものと思われます。
そして、親権をめぐる紛争において、「それまで日常的に子どもの世話をしてきた親(主たる監護者であった親)」は、有利な立場にあります。
では、そのような「監護親」から子どもを連れ去った場合は、親権争いにどう影響するのでしょうか。

(2)違法に子どもを連れ去ったことは、マイナスな要素になる

子どもの親権は、従前、主として次の事情を考慮して判断されてきました。

①それまでの主たる監護者はどちらであったか、
②兄弟姉妹を分離せずに監護できるか、
③おおむね10歳以上の子どもについては、子どもの意思、
④監護者としての適格性(監護意欲、健康状態、性格、経済面等)など

共同親権の導入後も、父母の意見が対立し、共同親権を選択できない場合や、共同親権を選択しても「子どもの監護方法」で争いになった場合には、やはり①〜④のような事情が重視されるものと想定できます。
したがって、子どもの違法な連れ去りによって監護が始まったからといって、必ずしも親権を失うというわけではありません。ただし、違法に子どもを連れ去ったことは、親権者としての適格性を判断する一つの要素になり、マイナスに評価される要因になります。

チェックポイント~親権と監護権について~

離婚時の子どもを巡る紛争においては、「親権」「監護権」という用語がよく使われますが、以下のように整理できます。

親権
未成年の子どもを一人前の社会人になれるように監護養育をし、子どもの財産を管理する権利及び義務のことをいいます。
監護権
子どもの日常生活や教育等の世話や管理を行う権利及び義務のことをいいます。監護権は親権の一部であり、「身上監護権」ともいわれます。

弁護士は「子どもの連れ去り」にどう対応しますか?

(1)子どもの連れ去り事案は、弁護士にとっても緊急性が高い

子どもの連れ去り事案は、子どもの安全性や精神的な影響といった面から、非常に緊急性の高いケースが多くあります。弁護士として、「子どもが連れ去られた」というご相談をいただいた場合には、できるだけ優先度を上げて面談の予定を調整させていただき、詳しくご事情をお聞きして、速やかに対応方針を決定します。

子どもの連れ去りに対する対応は、主として次の3つです。

(1)  子の引渡しの審判と監護者指定の審判の申立て
(2)  審判前の仮処分の申立て
(3)  人身保護法に基づく子の引渡し(人身保護請求)

 

(1)子の監護者指定の審判、子の引渡しの審判の申立て

子の監護者指定の審判は、別居中の夫婦(父母)のどちらが監護者になるかを家庭裁判所が判断する手続きです。子の引渡しの審判は、夫婦(父母)の一方が他方に子どもの引渡しを求め、その可否を家庭裁判所が判断する手続きです。通常、子どもを連れ去られた場合には、この二つの審判を同時に申し立てます。
子の監護者指定の審判においては、主に以下の事情が考慮されます。監護者と認められれば、通常子の引渡しも認められます。

監護の継続性 子どもが一方の親の監護を受けて平穏に生活している場合には、できるだけその監護状況を変えずに、現状を維持するのがよいと考えられています(監護の継続性維持の原則)。ただし、直近の監護が違法に始まった場合には、この原則を重視しないという考え方もあり、絶対的なものではありません。また、直近の監護状況だけではく、子が生まれてから現在までの監護状況全体が考慮されることもあります。
監護者としての適格性 子どもを物質的・精神的に安定して養育できるのはどちらかという問題です。これまでの監護実績、監護意欲、監護能力(健康状態や性格、経済力等)のほか、住環境や監護補助者(祖父母など補助をしてくれる人)の有無等が考慮されます。
母性的な役割 特に乳幼児の子どもについては、「母性的な役割」を担っている方の親を優先すべきという考え方があります。ここでいう「母性」は、「母親」という意味ではありません。
子どもの意思 おおむね10歳前後から、子どもの意思も考慮されます。
また、15歳以上の子どもについては、子どもの陳述を聴かなければいけないという規定があります。
兄弟姉妹を分離しないか 兄弟姉妹を引き離さず、できるだけ一緒に監護できるかどうかも考慮要素の一つです。
子どもの状況 子どもがこれまでの監護状況に適応していたかどうか、監護状況が変化したときに適応できそうかどうか等、子どもの事情も考慮されます。
面会交流に対する姿勢等 非監護親と子の交流に対する許容性や協力的な姿勢があるかどうかも、監護者を決める際の一要素となります。しかし、DVや虐待から逃れるために別居を開始した場合など、事情は様々ですから、絶対的なものではありません。

なお、子どもの心身に危険がなく、緊急性が高くないと裁判所が判断した場合には、「まずは当事者間でよく話し合って合意を目指すべきだ」という考えのもと、調停手続きに付すという決定がなされることがあります。

 

(2)審判前の仮処分の申立て 

✔️ 子どもの心身に危険が生じているなど緊急性が高い場合に申し立てます。
✔️ 審判前の仮処分とは、正式な審判が出るまでに時間がかかるので、その間子どもの安全を守るために「仮の処分」をして欲しいと申し立てるものです。
✔️ ①正式な審判が出るまで自分を「仮の監護者」に指定してほしいと申し立てる「仮の監護者の指定の申立て」と、②自分が「仮の監護者」になることを前提として、「どもの仮の引渡しを求める「子の仮の引き渡し」の申立て2つを併せて行います。

審判前の仮処分の申立ては、審判を待っていたのでは子どもの健康が害される等、緊急の場合にのみ認められるものです。監護者の元から子どもが連れ去られたケースでは、連れ去りの違法性が高いので、違法状態を解いて子どもを監護者のもとに帰すための緊急性がありますから、危害のおそれを問わず子の仮の引渡しを認めるべきだという考え方が有力です。

(3)人身保護法に基づく子の引渡し

人身保護請求は、他の方法では救済されないケースのための「最後の手段」として位置づけられた制度です。拘束を受けている人が現に危険にさらされているケースを想定しているため、手続きが非常に早く進みます
人身保護法による子の引き渡しが認められるのは次のようなケースに限定されます。

① 違法に身体の自由を拘束されている
② その違法性が顕著
③ ほかに適切な方法がない
④ 原則として弁護士をつけて請求する必要がある。

裁判実務では、連れ去られた子どもの引渡しを求める場合、通常は家庭裁判所の手続きによるべきであると考えられています。

例外的に人身保護請求による子の引渡しが認められるのは、①家庭裁判所の審判や仮処分が出たのに相手が従わず、強制執行でも引渡しが実現しない場合や、②虐待等により、虐待などが原因で現に子どもの生命や身体に危険が生じていて家庭裁判所の手続きをとっていたのでは間に合わないような特別なケースに限定されます。

子どもの連れ去りでお悩みの方は弁護士にご相談ください

✔️ 子の連れ去り事案は、適切で迅速な法的対応が必要になる
✔️ 審判や保全処分の申立て、場合によっては人身保護法による申立てを行うなど、法律の専門知識が不可欠である。
✔️ 大切な子どもを連れ去られたとき、自分で冷静に対応することは難しい。
✔️ 相手方との交渉や裁判所での手続きに備えて準備する必要がある。

子どもを一方的に連れ去られてしまったとき、動揺や不安で冷静な判断が難しくなってしまいます。しかし、対応を誤ると、かえって状況が悪化してしまうおそれがあります。

「今すぐ子どもを取り戻したい」「相手と直接話すことは避けたい」「どう動けばよいのかわからない」

このようなお悩みをお持ちであれば、まずは一度、ご相談ください。

私はこれまでにも、多くの「子どもの連れ去り」事案に対応してきた実績があります。ご相談者の立場やご事情を丁寧に伺いながら、最善の対策をご提案し、お子さんの幸せのために行動します。

この記事を担当した弁護士
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みなと綜合法律事務所 弁護士 細江智洋

神奈川県弁護士会所属 平成25年1月弁護士登録
当事務所は、離婚問題でお悩み方からのご相談を日々お受けしています。離婚相談にあたっては、あなたのお気持ちに寄り添い、弁護士の視点から、人生の再出発を実現できる最良の方法をアドバイスさせていただきます。まずは、お気軽にご連絡ください。

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