親権・監護権・共同親権についての詳しい解説
はじめに
子どもがいる夫婦が別居や離婚する場合に考えなければならないのが、子どもと親権・監護権の問題です。
親権・監護権は「別居・離婚後、だれがどのように子どもを育てるのか」という問題であり、離婚に伴う紛争で最も争いが激しくなりやすいポイントです。
このページでは、「親権」とは何か、「監護権」とは何か違うのか、親権・監護権に争いが生じた場合の対策や裁判所が親権者・監護者を決める基準について、令和6年の法改正を踏まえながら、横浜の離婚弁護士がわかりやすく解説いたします。
目次
親権・監護権とは
1 親権とは
未成年の子どもが大人になるまでの間、子どもを監護教育し(世話・教育をして)、子どもの財産を管理する権利及び義務のことをいいます。
つまり親権には、①身上監護権(子どもを世話し教育する権利義務)と②財産管理権(子どもの財産を管理する権利義務、法律行為の代理権・同意権)の二つが含まれます。
ポイント 親の責務が明文化されました (改正民法817条の12)
① 子どもの人格の尊重
「父母は、この心身の健全は発達を図るため、その子の人格を尊重すると共に、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育」しなければならない。
② 子どもの扶養
「その子が自己と同程度の生活を維持することができるように扶養しなければならない」。
③ 父母間の人格尊重・協力義務
「父母は、婚姻関係の有無に関わらず、子に関する権利行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない」。
2 親権の内容は?
親権には、以下の権利義務が含まれます。
a) 監護及び教育(民法820条)
b) 居所指定権(民法822条)
c) 職業の許可(民法823条)
未成年の子どもは、親権者の許可を得なければ職業を営むことができません。
d) 財産の管理及び代表(民法824条)
親権者は、子供の財産を管理し、財産に関する法律行為について代理権を有します。
3 監護権とは
親権のうちの①身上監護権のことで、子どもを日常的に世話して教育する権利及び義務をいいます。具体的には、a)監護及び教育、b)居所の指定、c)営業の許可が身上監護権に含まれます。
どんなときに親権と監護権の問題は生じるのですか?
✔️ 父母が別居するときに「監護者指定」の問題が生じる
✔️ 父母が離婚するときに「親権者指定」の問題が生じる
✔️ 改正法施行後は、離婚後は共同親権か単独親権か、共同親権行使の方法をどうするか、どちらが子供を日常的に監護するかと言った問題が生じる
✔️ 夫婦が別居するときに「監護者指定」の問題が生じる
婚姻中は「共同親権」ですから、別居中であっても「親権」の問題は生じません。
しかし、夫婦の関係に問題が生じて別居することになったときには、どちらが子どもを引き取って一緒に生活し、子どもを育てるのかが問題になります。これが、「監護者指定」の問題です。
夫婦の話し合いで「別居中どちらが子どもと暮らすか」つまり「監護者」が決められない場合には、家庭裁判所に監護者を決めるための調停・審判を申し立てることができます。
✔️ 父母が離婚するときに「親権者指定」の問題が生じる
いよいよ夫婦が離婚することになると、子どもの親権者を父母どちらにするかという「親権者指定」の問題が生じます。
✔️ 改正法施行後は、離婚は共同親権か単独親権か、共同親権行使の方法をどうするか、どちらが子供を日常的に監護するかと言った問題が生じる
改正法施行後は、共同親権か単独親権か、共同親権を選択した場合には、親権行使のルールをどう決めるか、どちらが子どもと同居して日常的な監護教育をするかといった問題が生じると予想されます。
令和6年の法改正で離婚後の親権の問題はどう変わる?
1 令和6年改正前の制度
令和6年改正法の施行前は、「一方を親権者と定めなければならない」と規定されており(改正前民法819条1項)、父母のどちらか一方の「単独親権」としなければいけません。そのため、父母の両方が子の親権を希望した場合には、離婚裁判などで紛争が激化する傾向にあります。
2 共同親権の導入
令和6年の民法改正により、離婚後の親権者は①父母の共同親権か、②父母どちらかの単独親権かを選択できると規定されました(改正民法819条1項)。
3 話し合いで「親権」を決められないときはどうなりますか?
1)離婚調停や離婚訴訟、親権者指定の調停・審判で決めます
調停で合意ができなければ、裁判所が、「共同親権」にするか、「単独親権」にするか、「単独親権」の場合親権者は父母どちらにするかを決めます。
2)判断基準は?
裁判所が親権者をどうするか決める際には、「子の利益のため、父母と子の関係、父と母との関係その他一切の事情」を考慮します。
3)次の事情があるときは、裁判所は、一方の単独親権としなければいけません
a 父又は母が子の心身に害悪を及ぼす恐れがあると認められるとき
b 父母間のDVなど心身に有害な影響を及ぼす言動のおそれ、父母間の協議が整わない理由その他の事情を考慮して、共同親権が困難である場合
共同親権の導入後の争点は?
父母の一方が共同親権を主張し、他方が自分の単独親権を主張する場合や、父母の双方が単独親権を主張することが考えられます。
単独親権を主張する場合には、上記の「子の心身に害悪を及ぼおそれがある」ことや「共同親権が困難である」という主張とともに、これまでの監護実績などから「自分が親権者に相応しい」という主張がなされて、争いになるものと予想されます。
裁判所が親権者・監護権者を決めるときの具体的な基準
1 法改正前の取扱い
裁判所で親権者や監護権者を決めるときの判断基準はおおよそ共通しており、主に以下の事項を考慮します。
✔️ 従前の主たる監護者はどちらだったか
主として子どもの日常的な世話をしていたのがどちらだったかが重視されます。裁判所は、従前の子どもの養育環境が適切であった場合には、できるだけ子どもの養育環境を変えずに維持すべきであるという考え方をしており、またこれまで主として子どもの世話をしていた方の親には監護実績があるからです。
✔️ 監護者・親権者としての適格性
父母のどちらが子どもを監護養育するのに適しているかが考慮されます。一方が従前から子どもの日常的な世話をしていたとしても、虐待やネグレクトがある場合には監護者・親権者として相応しくなく、子どもが危険に晒されるからです。
✔️ 母性的な役割を果たしていたのはどちらか(子どもが乳幼児の場合)
お子さんがまだ幼い場合には、どちらが母性的な役割を果たしていたかも考慮されます。ここでいう「母性」とは「母親」という意味ではありません。
✔️ 子どもの意思(おおむね10歳から)
お子さんそれぞれの事情で変わりますが、概ね10歳くらいから、子どもの意思も考慮されます。ただし、子どもの意向だけで判断されるわけではなく、客観的な監護状況とともに、一つの考慮要素とされます。
なお、子どもが15歳以上の場合、裁判所は子どもの意見を聴取しなければいけないという規定があります。
✔️ 兄弟姉妹を分離せず監護できるか
できるだけ、兄弟姉妹を分離せず、一緒に育てることが望ましいと考えられており、分離せずに一緒に監護できるかどうかも考慮されます。
✔️ その他
離婚や別居後子どもを引き取った場合に、他方の親と子どもとの面会交流に協力的であるかどうかも考慮されます。離れて暮らす親子が面会交流を通じて関係を維持することは、子どもの健全な育成に適うと考えられているからです。
このほか、祖父母などの監護補助者(育児を手助けする人)が身近にいるか、心身の健康状況なども考慮されます。
2 令和6年改正法の施行後の親権問題は?
共同親権導入後も、父母の一方または双方が「自分が単独親権者になるべきだ」という主張をして争いになることが想定されます。
条文にある虐待やDVといったわかりやすい事情があれば別ですが、親権について裁判所が決める際の「一切の事情」について、具体的な判断基準は、今後の裁判例を待たないとわかりません。しかし、これまで重視されてきた「従前の監護状況」や「監護者としての適正」、「子どもの意思」などの基準は、今後も重視されるものと思われます。
3 「監護者」の問題は?
離婚前の夫婦が別居する場合、「どちらが子どもを引き取るか」という監護者の問題は依然として生じます。法改正により新たな基準が示されたわけではないので、従前考慮されていた事項が今後も重視されるものと思われます。
また、共同親権の導入後、共同親権を選択しても、「自分が子どもと同居したい」「日常的な世話や教育は自分がしたい」、「自分を監護者に指定して欲しい」という紛争が生じると想定できます。
離婚後の共同親権はどうやって「行使」する?
1 原則:父母が「共同して」親権を行使する
つまり、子どものことを父母が「一緒に」決めます。
2 例外:次の場合には、共同親権でも「単独で親権を行使」できます
① 他の一方が親権を行使できないとき
(父母の一方が長期の出張や心身の不調などで親権を行使できないとき)
② 子の利益のため急迫の事情があるとき
(子の入学手続きなど急を要する場合や、DV・虐待などから逃げる必要があるとき)
③ 子の監護教育に関する日常の行為について親権を行使するとき
(日常の食事や衣服・習い事・アルバイトの承認・風邪など一般的な治療)
また、ある事項について父母で話し合っても決められない場合には、家庭裁判所がその事項について父母のどちらか一方が単独で親権を行使できると定めることもできます。
3 監護について「分掌(分担)」することもできる
改正民法766条1項は、父母が協議離婚するときは、「子の監護の分掌」について定めることができるとしています。
例えば、子の監護の分担で、例えば平日は父母の一方が監護し、週末や祝日は他方が監護するといった分担が考えられます。
4 共同親権を導入しても、「どちらが子どもと同居するか」「どちらが子どもを監護するか」という問題は残る
法改正により、離婚後の親権や監護について柔軟な選択ができるようになりましたが、共同親権を選んでも、実際に「どちらが子どもを引き取るか・監護するか」という問題は残ります。
親権者と監護者を分けることができる?
1 令和6年の民法改正以前の取扱い
令和6年の改正法施行前から、離婚時に親権者と監護権者を分けて決めることは可能です(現行民法766条)。通常は離婚時の話し合いで、親権者と監護者を決めます。その場合、後のトラブル防止のためにも、話し合った内容を離婚協議書や離婚公正証書に記載して明らかにしておくことをお勧めします。
なぜ「分離」するのですか?
✔️ 親権について争いが激しく離婚が成立しない場合に、お互い譲歩し合うため
✔️ どちらか一方が子どもとのつながりを絶たれてしまうのを回避するため
✔️ 父母の一方が日常的な子どもの監護はできないものの、財産管理には向いているなどの事情から
2 令和6年改正法が施行された後(共同親権導入後)はどうなりますか?
共同親権を選択した上で、父母の一方を監護者にすることができます(改正民法766条1項)。「監護者」は必ずどちらかに決めなければいけないわけではなく、「監護を分担する」ことも可能です。
監護者は、①監護教育、②居所の指定(住む場所を決める)、③職業の許可を行うことができます(改正民法824条の3第1項)。通常は監護者が子どもと同居し、日常的な世話をします。
親権・監護権争いになったときの対応方法
1 親権争い・監護権争いになったときの手続きの流れ
離婚や別居に際して、どちらが子どもを引き取るか争いが生じた場合、紛争を解決するための手続きの流れは、以下のようになります。
① 夫婦で話し合う
② 調停手続きを行う
③ 離婚訴訟・審判手続きで争う
2 相手に虐待やネグレクト、不適切な言動がある場合には証拠を確保する
相手方から子どもに対する虐待や不適切な言動がある場合や夫婦間のDV等がある場合には、速やかに証拠を確保しましょう。DVや虐待は、あなたの単独親権や別居時の監護権を認めてもらうために非常に重要な事実であり、事実を証明する証拠が必要です。
3 裁判所の考慮事項から自分の状況を判断する
親権者・監護権者を裁判所が判断するとき考慮事項についてご説明しましたが、それらの事項は今後も意味を持つと考えられます。
したがって、これまでのお子さんの監護状況に当てはめて、ご自身が親権・監護権を獲得できそうか、これまでの双方の育児の仕方に問題はなかったかを分析します。
最終的に裁判所の判断に委ねることになった場合にご自身が有利かどうかは、話し合いという「交渉段階」での「こちらの出方」にも大きな影響がありますから、冷静にこれまでの在り方を整理することは非常に重要です。
4 相手の方が親権・監護権に有利な場合は対策を考える
それまで主として育児を担当していたのが相手であったり、10歳以上のお子さんが相手と暮らしたいという意向が強く、育児の内容にも特別問題がない場合には、裁判所で争っても相手に有利になってしまう可能性が高くなります。
そのような場合には、子どもとのつながりや関係を維持するために、面会交流の確実な実施や導入後に共同親権を希望する等の方策を考える必要があります。
5 お子さんにとっては父母どちらも「親」であることを忘れずに
子どもをめぐる夫婦の紛争は、子どもへの愛情ゆえに非常に激化しやすく、感情的になりやすい難しい争点です。離婚や別居を考える夫婦間では、相手への不信感も相俟って、「一歩も譲れない」「人格的にも攻撃し合う」争いになってしまいます。
しかし、紛争の当事者になってしまった父母は、どちらもお子さんにとっては「親」であり「両親」です。親権や監護権の争いが一段落した後でも、父母間の関係もお子さんとの関係も、完全に断ち切ってしまうことはできない間柄です。
もちろん、虐待やDVなどで心身の安全を守るために徹底的に対策しなければいけないケースもありますが、子どものためにも「紛争後にも冷静にやり取りできる余地」を残すことを意識した方が良いケースも多くあります。
親権・監護権の問題で悩んだときは弁護士にご相談ください
- 親権・監護権の紛争解決には、専門的な法律の知識が必要です。
- 夫婦間での話し合い・交渉をする場合でも、「裁判所の判断がどうなりそうか」を想定した戦略が有効です。
- 裁判所での手続きは長引くケースが多く、負担が大きいので、弁護士に対応を任せられると安心です。
- 裁判所での手続きでは「調査官調査」や「審問手続き」「本人尋問手続き」などが実施されることが多く、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
- 子どもをめぐる紛争は感情的になりやすい上、紛争後もやり取りが必要なので、弁護士を通じた手続きが取れた方が双方の負担が小さくなります。
弁護士からのメッセージ
親権や監護権をめぐる問題は、法的な知識だけでなく、紛争後の関係も視野に入れた冷静な対応方針と、そして何より「お子さんの幸せ」を大切に考えながら進めていく必要があります。
しかし、離婚や別居の問題に直面するとき、冷静な判断をするのはとても難しいものです。だからこそ、法的な専門知識と経験をもつ弁護士が、適切なアドバイスやサポートをいたします。
私は、離婚・男女問題を取り扱って10年以上の経験があり、年間150件以上のご相談をお受けしています。これまでには、父親側での親権獲得を実現した実績もございます。現在は、新規のご相談分野を「離婚・男女問題」および「相続問題」に絞り、より専門的で丁寧な対応を心がけております。
お一人で悩まず、どうぞお気軽にご相談ください。お子さんの未来のために、共に最善の選択を考えてまいりましょう。
この記事を担当した弁護士
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みなと綜合法律事務所 弁護士 細江智洋
神奈川県弁護士会所属 平成25年1月弁護士登録
当事務所は、離婚問題でお悩み方からのご相談を日々お受けしています。離婚相談にあたっては、あなたのお気持ちに寄り添い、弁護士の視点から、人生の再出発を実現できる最良の方法をアドバイスさせていただきます。まずは、お気軽にご連絡ください。